バッテリ・マネージメント・システム(BMS)の普及が高まっていることは否定できない事実ですが、困難が伴う可能性があります。Mordor Intelligenceのレポートによると、BMS市場は2029年までに約120億ドル規模になると予測されています。その理由は比較的単純です。業界全体での持続可能性への取組みに伴い、輸送手段が電力源とするものへと移行し、再生可能エネルギーから生み出される電力をバッテリに蓄える必要性があるからです。
 

産業アプリケーション、医療機器、通信、データ・センターなどのニッチ市場でも、各社の業務はバッテリやそのマネージメント・システムにますます依存するようになっています。したがって、多くの業界人にとって、BMSの仕組みとその設計方法を理解することはもはや必須です

BMSについての一般的な知識

複雑であり、電力が重要

簡単に言うと、バッテリ・マネージメント・システム(BMS)とは、セルのバッテリ残量を意味する充電状態(SoC)と、未使用時と比較したバッテリの劣化状態(SoH)とを監視するものです。しかし、多くの人は、BMSの複雑な性質を過小評価しがちです。
 

バッテリ・マネージメント・システムでは、SoCとSoHを追跡するだけでなく、充電サイクルと放電サイクルを制御することでセルの消耗が一様になるようにし、バッテリの寿命を延ばします。また、障害発生時の火災防止目的でのバッテリの切断や、故障発生時の別のセルやパックへの切り替えなど、安全機能も装備しています。
 

BMSは幅広いアプリケーションと複雑な機能を用意できますが、興味深いことに、多くのエンジニアは、設計時に非常にありふれた一連のポイントのみを検討する手法を採っています。チームは多くの場合、バッテリのピーク消費電力、平均消費電力、安全要件、SPIやCANのようなホスト・マイクロコントローラとの通信に使用するペリフェラルなどに関する決定を行います。こうしたポイントの検討は必要ですが、ここでは、開発の初期段階ではめったに話題に上ることはないものの、BMSの設計においては不可欠な3つのポイントについてご紹介します。

開始前に忘れずに考慮すべき3つのポイント

1.バッテリ・モジュールのデイジー・チェーン接続は容易か

バッテリ・パックのデイジー・チェーン接続は、一般的ですが、見過ごされがちなテーマです。多くの場合、大きなパックを1つ使用するよりも複数のパックを使用する方が、コスト削減、冗長性の提供、寿命の延長などの目的で役立ちます。ただし、バッテリのデイジー・チェーン接続は、エンジニアリング上の難問です。BMSでは、すべてのセルとの高速かつ安全な通信を確保する必要があります。
 

つまり、セルとそのセンサを直接接続すると同時に、デイジー・チェーンに使用されるボードとホスト・マイクロコントローラを電気的に絶縁する必要があります。さらに、バッテリ・パックのスペースの小型化により、電子部品や温度センサなどの必要なセンサをどう配置するかという点で多くの困難が生じています。

2.開発エコシステム内にすでにどのようなBMSソフトウェア機能が組み込まれているか

ソフトウェア開発者は、開発エコシステムのおかげでアプリケーションを順調に作成できるということを非常によく理解しています。したがって、どの機能がすぐに使用できるのかを把握しておくことが不可欠です。実際、チームがSoCやSoHなどの機能リストを設定することはよくありますが、これらの機能を迅速かつ確実にソフトウェアに実装するアプリケーションをどうすれば作成できるかが検討されることはほとんどありません。
 

多くの場合、これらの機能をすぐに、あるいはほぼそのまま提供する開発エコシステムを採用すれば、企業は大幅な時間とリソースの節約を実現することが可能になります。簡潔に言うと、すべてを最初から設計しないとしても、BMSそのものが十分複雑なのです。

3.どうすれば概念実証を数分以内に作成できるか

概念実証は、最終設計までの明確な道筋を示してくれるため、チームの最適なスタート地点になり得ます。そのため、STは、L9936Eバッテリ・マネージメントICを特徴とする開発ボードAEK-POW-BMS63ENをリリースしました。さらに、AEK-COM-ISOSPI1も提供しています。これは、AEK-MCU-C4MLIT1プラットフォーム上のSPC58などのホスト・マイクロコントローラへの接続を絶縁するのに役立ちます。STは、バッテリをSTの開発キットに簡単に接続するためのAEK-POW-BMSHOLDも設計しました。

これにより、エンジニアは最大31個のパックを数分でデイジー・チェーン接続し、AutoDevKit Studio内に用意されているサンプルのアプリケーションを使用して設定を行いすべてのソフトウェア機能をテストすることもできます。

開発に向けて

概念実証を数分で組み込むことに加え、ユーザはSTのグラフィカル・ユーザ・インタフェース(GUI)を試すこともできます。これにより、ユーザはクーロン・カウントやセル・バランシングなどの概念への理解を深めることができます。さらに、適切なスタートアップガイドで、チームが確実に軌道に乗るようにできます。ただ、全員が最終設計について考えていると、開発の初期段階で何らかの見落としが発生しがちです。しかし、このような最初のステップは、企業が迅速かつ効率的な生産へ到達するために重要です。これこそが、STがハードウェアおよびソフトウェア・プラットフォームを提供するだけでなく、ドキュメントも提供して、この最初のステップを順調に進ませるべく努力している理由です。