車両接近通報装置(AVAS)は、車両の安全機能に欠かせない要素ですが、音声信号の実装は決して簡単ではなく、多額の投資が必要になる可能性があります。実際、ダッシュボードのライトが点灯するだけでは不十分です。AVASは、衝突の可能性、不注意な車線変更、物体の接近、リア・ゲートの自動閉鎖といった多くのイベントを警告する、ユーザ体験の重要な要素です。さらに、現在の電気自動車は、歩行者に自動車の存在を知らせるために仮想エンジン音を備えています。しかし、1つ明らかなことがあります。それは、それらの音声信号はドライバーの音楽を再生するインフォテインメント・システムに頼ることはできないということです。自動車メーカーは、これまでとはまったく異なるアプローチが必要です。その出発点として役立つ3つの原則を以下に示します。

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AVASは単純化できる。
複雑さは機能ではない。


インフォテインメント・システムは、部品点数のかなりの部分を占めています。そのため、多くの自動車メーカーはその一部またはすべてをAVASシステムに流用しようとします。問題は、デジタル・シグナル・プロセッサやイコライザなどの機能のために、プログラムがかなり複雑になる可能性があることです。また、必ずしも重要システム向けに設計されているわけではありません。たとえラジオが鳴っていたり、音量が小さい時であっても警報音は必ず鳴る必要があります。つまり、音声信号が必要とされる緊急のニーズを満たすために、ガイドラインや安全対策、その他の大量のサブルーチンを上書きする必要があるということです。また、CANバスの使用といったハードウェアの課題も考慮されていません。

 

そこでSTは、SPC58車載用マイクロコントローラFDA903D D級オーディオ・アンプを使用したリファレンス設計により、AVASに対する非常にシンプルなアプローチを提供しています。もはや複雑なシステムや法外なコストのデバイスは不要です。基本的に、電源に接続し、スピーカに接続するだけで組み込みシステムが実現します。SPC58はCANバスに対応しています。FDA903Dは電流検出機能を搭載しているため、外付け回路の追加は不要でスピーカが断線しているかどうかを検出できます。専用ピンを使用してシステムのミュート / プレイを切り替えることも可能なため、従来のシステムよりもはるかにシンプルです。

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AVASは合理化できる。
資源の無駄遣いは自慢にならない。

 

AVASは、本質的にオーディオ処理がほとんど不要なため、ユニークな開発課題でもあります。例えば、チャイムやブザー音、あるいは疑似エンジン音は、スマートフォンでハイレゾ音源を再生するために必要な演算能力と比べると、大したことではありません。基本的に、インフォテインメント・システムは、車室内をあるあらゆるジャンルの音楽やボーカルなど音楽再生を主目的に合わせてチューニング設計されたオーディオ機器です。それに対し、AVASはドライバーまたは歩行者への情報提供・警告音が対象であることが多く、オーディオ・システムと同等のクオリティは必要ありません。加えて、既存のメイン・インフォテインメント・システムの音声信号処理と制御系統にAVAS信号を並列実行されるリアルタイム・アプリケーションを開発したりすることは、一見シンプルですが、より重要な音の再生が目的である場合には合理的ではありません。

 

まさにこうした理由から、STは開発者が可能な限り効率的にアプリケーションを開発できる方法に重点を置きました。SPC58マイコンにより、開発者は従来のI2CやI2Sインタフェースを使用するだけでFlashやアンプと通信できます。また、このシステムは非圧縮WAVファイルを再生できるため、エンジニアはピッチと再生速度を調整するだけでエンジンの加減速をシミュレートできます。STのプラットフォームは、大容量ファイルを保存したり、高度なオーディオ・パイプラインを使用したりすることなしに、音符を再生して複雑なメロディーを演奏することも可能です。つまり、マイコンが直接FDA903Dのようなパワー・アンプを駆動すれば、従来よりもはるかに少ないコストで多くの機能を実現できるということです。

3
AVASは多機能にできる。
機能の倹約は望ましくない。

 

STは、エンジニアがAVASに対するこの新たなアプローチのメリットを享受し、1つのリファレンス・プラットフォームですべてのSTソリューションを利用できるようにするために、AEK-AUD-C1D9031を開発しました。この開発ボードは、SPC58マイクロコントローラと、2つのスピーカを駆動する2つのFDA903D D級オーディオ・アンプを搭載しています。また、AVAS開発を始めやすいように、事前に録音したエンジン音が付属されており、AutoDevKitソフトウェア開発エコシステム内ですぐに使えるデモ・コードも用意されています。さらに、プラットフォームはカスタマイズも可能です。例えば、AEK-CON-C1D9031コネクタ・ボードを追加し、ポテンショメータを接続し、音量と再生速度を調整しながら再生すれば、再生音を調節できます。また、設計者は本キットの基板レイアウトを最終製品の参考にすることで、開発期間を短縮することも可能です。

 

AEK-AUD-C1D9031のようなスタンドアロン・プラットフォームのもう1つのメリットは、高い再利用性です。モジュール・メーカーは、トラックからスクーター、フォークリフトまで、新市場の開拓を進めています。本来、車載インフォテインメント関連のシステムは、他のアプリケーションには使用できません。それに対し、STのプラットフォームは、電源とスピーカさえあれば幅広い車種に移植できます。そのため、設計チームは複数の製品に同じ概念実証を適用することができ、投資利益率の大幅な向上が実現します。根本的に、AVASは、バッテリ・マネージメント・システムなどの優先事項の方が重視されるという理由で、妥協を余儀なくされるものであってはなりません。むしろ、優れたAVASプラットフォームは、コストを抑えながら、より多くの機能をエンド・ユーザに提供する必要があります。

 

AEK-AUD-C1D9031

安全性の向上、コストの削減、開発の加速