Matterは、Connectivity Standards Alliance(CSA)が策定するオープン・ソース規格であり、異なるIPテクノロジーで接続しているスマート・ホーム機器やスマート・ビルディング機器間のシームレスな連携を実現します。
Matterにより、データ・プライバシーを確保しながら、複数ブランド間のスムーズかつセキュアな連携が実現すると同時に、統一された認証インフラを通じて幅広い普及が可能になります。
Matterネットワークの理解
Matterネットワークは、それぞれ固有の役割を担う複数の種類のデバイスで構成されます。
Matterエンド・デバイスとは?
Wi-Fi、Thread、またはEthernetを介して動作する接続機器です(スマート照明、ドア・ロック、センサなど)。
Matterコントローラとは?
ネットワーク上のデバイスのコミッショニング(オンボーディング)と管理を担う機器です(スマートフォン、タブレット、スマート・ハブなど)。
Threadボーダー・ルータ / Matterブリッジとは?
異なるネットワークを接続するゲートウェイです。Threadボーダー・ルータはThreadトラフィックをWi-FiまたはEthernetネットワークにルーティングし、Matterブリッジは非IPデバイスをMatterネットワークに接続します。
Wi-Fi、Thread、またはEthernetの選択
注:Wi-FiとThreadが混在する環境では、Matter over Threadエンド・デバイスがWi-Fiアクセス・ポイントやIPネットワークに接続するには、Threadボーダー・ルータが必要です。
Matterデバイスの構築:ステップ・バイ・ステップ
Matterデバイスの実現に必要なコネクティビティ、ソフトウェア、セキュリティは、STM32開発エコシステム1つで完結します。エンド・デバイスおよびブリッジにはWi-FiまたはThreadを選択し、ゲートウェイにはEthernetアドオンを検討します。デバイスのオンボーディングは、Bluetooth® Low Energyで行うか、NFCコミッショニングによって直感的に行うことができます。必要に応じて、セキュア・エレメントを使用してMatter認証情報の保護を強化します。
STのMatter対応ソリューション:
ステップ1:コネクティビティ製品を選択する
プロジェクトに最適なアーキテクチャをクリックすると、適切なボードが表示されます。
STM32U5 / N6 / H5を選択し、電源接続型の常時接続機器にMatterを実装する場合はST67W611M1を追加します。
- アーキテクチャ:STM32ホストはX-CUBE-MATTERを使用してMatterアプリケーションを実行し、ST67W611M1はWi-Fi接続の運用を管理します。
- コミッショニング:ST67W611M1にはBluetooth® Low Energy機能が内蔵されており、無線モジュールの追加不要でデバイスのオンボーディングが可能です。
- 設計の柔軟性:単一のコネクティビティSoCへの移行不要で、既存のSTM32設計にMatter over Wi-Fiを追加できます。
- 拡張性:低消費電力シリーズから高性能シリーズまでの幅広いSTM32デバイスとモジュールを組み合わせることができます:STM32U5 / STM32N6 / STM32H5
低消費電力エンド・デバイスや、ThreadデバイスをIPネットワークに接続するゲートウェイなど、Matter over Threadネットワークにおける製品の役割に応じて最適なSTM32を選択します。
- 低消費電力Matterエンド・デバイスの場合:STM32WBA6マイコンを使用します。低消費電力設計と内蔵無線により、ThreadとBluetooth® LEを同時実行できます。Bluetooth® LEはペアリングに使用され、Threadは運用ネットワーク上の日常的なデバイス通信を担います。
- Threadボーダー・ルータまたはゲートウェイの場合:STM32MP1と、無線コプロセッサとしてSTM32WBA5 SoCを使用します。このアーキテクチャでは、スマート・ホームのIPネットワークからThreadデバイスにアクセスし、Matterを介してコミッショニング、制御、利用が可能です。
Matterの設計でZigbeeやLoRaなどの非Matterネットワークと通信する必要がある場合、ブリッジが必要です。2つのエコシステム間でデータを変換するには、Ethernet対応のSTM32H7マイコンを使用します。
ステップ2:Matterオンボーディング / コミッショニング方法を追加する
オンボーディングとは、ユーザがスマート・ホームやスマート・ビルディングのネットワークに新しいMatterデバイスを追加する際、QRコードをスキャンするか、NFCを利用してスマートフォンを対象デバイスにかざすことで開始されるプロセスです。オンボーディングは、Matterコミッショニング・プロセスの最初の部分です。
コミッショニングとは、デバイスをMatterネットワーク上で信頼できる状態で動作させるためのセキュアなバックエンド技術プロセスです。コントローラはデバイスを検証し、信頼関係を確立し、ネットワーク認証情報を付与し、Matterファブリックに追加します。
プロジェクトに必要なMatter体験を構築します。
Bluetooth® LEは、Matter規格の標準無線コミッショニング方法で、スマートフォンやタブレットなどのMatterコントローラがMatterデバイスを検出し、オンボーディングできるようにします。Matter over Wi-FiおよびMatter over Threadの設計では、Ethernetを唯一のネットワーク・インタフェースとして使用する場合を除き、規格準拠のためにBluetooth® LEが必要です。ST67W611M1およびSTM32WBAにはBluetooth® LE機能が統合されているため、無線モジュールを別途用意する必要はありません。コミッショニングをより簡素に行うにはNFCなどの方法を追加することも可能です。
オプションのST25DA-C NFCチップを使用すると、Matterオンボーディングを直感的に行えます。
- 簡単操作:スマートフォンを対象デバイスにかざすだけです。カメラを起動してQRコードをスキャンする必要はありません。
- 電源不要:事前コミッショニングや、設置担当者が電源の供給されていない機器をコミッショニングする場合に最適です。
- 安全な認証情報:ST25DA-Cに内蔵されたセキュア・エレメントが機密のMatter認証情報を保護します。
- 導入後も価値を提供:ST25DA-Cは、セキュア・ストレージや設定の更新などのユースケースもサポートします。
ステップ3:STのMatterソフトウェアを活用してプロジェクトを開始する
X-CUBE-MATTERは、STのMatterソフトウェア開発キットで、Over-the-Air(OTA)アップデート、プロビジョニング・サービス、スリーピー・エンド・デバイスをはじめとするMatterの主要機能をサポートしています。Linux、macOS、Windowsに対応しています。
STM32開発ボードと、STM32Cubeですぐに使えるX-CUBE-MATTERのサンプルを用意すれば開始できます。
サンプル・アプリケーションをベースに、最も近いサンプルを独自の設計に合わせてカスタマイズできます。Threadボーダー・ルータの機能を示すSTM32 MPUを使用したその他のサンプル・プロジェクトは、GitHubにあります。
別のデバイス・タイプのサンプルが必要な場合、STコミュニティからお問い合わせいただくか、STM32 Wikiをご覧ください。試作開発から認証取得までの段階的なガイダンスを提供します。
ステップ4:Matterデバイスの認証を取得する
認証は非常に重要です。Connectivity Standards Alliance(CSA)の認証を取得することで、デバイスがMatter規格に準拠していることが証明されます。STは、以下のMatter認証済みプラットフォームにより認証プロセスを容易にします。
ステップ5:すべてのMatterデバイスに信頼できるIDを付与する
デバイスがMatterネットワークに参加するには、その真正性と認証済みであることを証明しなければなりません。そのため、デバイスごとに固有のMatter認証情報をプロビジョニングする必要があります。これらの認証情報は、不正なデバイスやクローン・デバイスからMatterネットワークを保護する上で役立ちます。
各Matterデバイスの真正性と相互運用性を証明するには、デバイス固有のDevice Attestation Certificate(DAC)と秘密鍵を生成し、安全にプロビジョニングした上で、そのライフサイクルを管理する必要があります。Matter認証情報の取得には、以下の3つの方法があります。
- 自ら行う:自社独自のMatter認定公開鍵インフラストラクチャ(PKI)を使用して、認証情報の生成、プロビジョニング、管理を行います。
- STM32マイコンの場合、Aurora networks社を使用する:Matter認証情報をSTM32マイコンに直接プロビジョニングする場合は、このオプションを選択します。STのパートナーであるAurora networks社(旧CommScope社)は、STM32と統合されたプロビジョニング・クライアントとともに、デバイスのライフサイクル全体にわたる認証情報の生成、提供、管理に必要なPKIインフラおよびサービスを提供しています。
- STセキュア・コンパニオン・チップの場合、ST MatterConnectを使用する:対象となるSTセキュア・コンパニオン・チップ(ST25DA-CやSTSAFE-Aなど)を設計に採用する場合は、このオプションを選択します。STがセキュアな製造拠点においてMatter認証情報を生成し、セキュア・ハードウェアにプロビジョニングするため、秘密鍵はSTM32アプリケーション・プロセッサから分離された状態で保管されます。STは、デバイスのライフサイクル全体にわたる認証情報の管理も行います。ST MatterConnectの詳細はこちら
よくある質問(FAQ)
ネットワークへの直接接続、高いデータ・スループット、またはクラウド接続が必要な電源接続型の機器の場合、Wi-Fiを選択します。低消費電力のメッシュ・ネットワークの恩恵を受けるバッテリ駆動または低データレートの機器の場合は、Threadを選択します。また、既存設備も考慮する必要があります。Matter over ThreadはThreadボーダー・ルータが必要ですが、Matter over Wi-Fiは標準のWi-Fiアクセス・ポイントを介して接続します。
Ethernetは、信頼性の高い有線接続、安定した性能、低遅延が必要な電源接続型の固定設置機器(ゲートウェイ、ハブ、ブリッジ、コントローラ、建物インフラなど)の場合に選択します。また、機器が他のMatterネットワークの高信頼バックボーンとして機能する場合にも役立ちます。
そうとは限りません。Matter over Wi-Fiデバイスは、既存のWi-Fiルータまたはアクセス・ポイントを使用します。Matter over Threadデバイスは、Threadメッシュをホーム・ネットワークやビルのIPネットワークに接続するために、Threadボーダー・ルータが必要です。この機能は、対応するスマート・ホーム・ハブやスピーカ、Wi-Fiルータにすでに搭載されていることがあるため、専用ハードウェアを追加する前に対象のエコシステムを確認してください。
多くの場合、可能です。ホスト制御アーキテクチャであれば、既存のSTM32上のアプリケーションをそのまま維持しながら、Matterに必要なコネクティビティを追加できます。まず、メモリ、インタフェース、セキュリティ、そしてOver-the-Air(OTA)アップデートの要件を確認してください。
リファレンス・サンプルのビルド、コミッショニング、運用ネットワークへの参加、コマンドの送受信、再接続が正常に実行されることを確認してください。これにより、製品固有の開発を開始する前に、既知のベースラインが確立されます。Wikiをご覧ください。
ハードウェア、エンクロージャ設計、ユーザ・インタラクション、製造データ、テストに影響を与えるため、早い段階で定義する必要があります。その際、デバイスへのアクセスのしやすさ、オンボーディング中の電源供給の有無、最適な導入方法(Bluetooth LEのみか、Bluetooth LE+NFCか)を検討します。
量産準備の方針が確定する前に計画する必要があります。認証情報ストレージ、PKI所有権、プロビジョニング、ファクトリ・プロセス、証明書のライフサイクル管理は、ハードウェアの選定や製造オペレーションに影響する可能性があります。STは、ST25DA-CまたはSTSAFE-A向けにはST MatterConnectを通じて、STM32向けには認定パートナーであるAurora networks社を通じて、認証情報サービスを提供しています。
コミッショニング / 削除 / 再コミッショニング、ネットワークの切断と復旧、不正な認証情報、Over-the-Air(OTA)アップデート、低消費電力動作、ターゲット・エコシステムとの相互運用性をテストする必要があります。STのMatter検証フローには、Matterエコシステムとの相互運用性テストが統合されています。
一般的な原因として、プロビジョニングのミス、ネットワークの非互換性、検出タイムアウト、オンボーディング・データの不備、証明書に関する問題などが挙げられます。検出、セキュア・セッション確立、証明、ネットワーク設定、運用ネットワーク上でのデバイス検出の各段階別にフローを診断します。
セキュア・ファームウェア・アップデート、バージョンの互換性、診断機能、復旧時の動作、回帰テストについて、当初から計画しておくことです。また、Matter認証情報や証明書のセキュアな保管、プロビジョニング、侵害時の失効、および製品ライフサイクル全体にわたる復旧方法を定義することも必要です。STは、ST MatterConnectまたはST認定パートナーであるAurora networks社を通じて、認証情報のプロビジョニングおよびライフサイクル管理をサポートできます。