車載Ethernetバックボーンを介して、車室内分散オーディオを実現するSTのテクノロジーをご紹介します。ゾーン型ソフトウェア定義型自動車(SDV)アーキテクチャおよび同期オーディオ転送に対応し、配線の複雑性を軽減します。
車室内オーディオの新しいアーキテクチャ
自動車のアーキテクチャがゾーン型およびソフトウェア定義型へと移行するのに合わせて、オーディオ配信の手段も、もはや専用のポイント・ツー・ポイント配線に限られなくなっています。車載Ethernetを使用すれば、共有バックボーンを介したオーディオのストリーミングが可能となり、システム設計が簡素化されるだけでなく、車室内オーディオ方式に拡張性がもたらされます。
この手法は、特に次世代自動車と密接な関わりがあります。これらの自動車では、複数のオーディオ・ゾーン、集中処理、ソフトウェアに基づく動的な機能集積化などが当たり前になりつつあるからです。
STのStellar Gプラットフォームは、分散車載システムのリアルタイム処理、ネットワーク統合、同期の機能を提供することで、こうした進化を後押しします。
従来のオーディオ・アーキテクチャでは拡張が困難になりつつある理由
従来のオーディオ・アーキテクチャでは多くの場合、ヘッド・ユニット、アンプ、マイクロフォン、ゾーン・コントローラなどを専用配線で接続しています。そのため、車両プラットフォームの複雑化に伴い、以下が増大する可能性があります。
- ハーネスのサイズと配線経路の複雑性
- システム・コストと製造工数
- ゾーン間の同期に関する問題
- 異なる車両モデル間でオーディオ機能を適応させることの難しさ
オーディオ配信を車載Ethernetに移行することで、OEMやティア1サプライヤは、オーディオ機能をあるべきゾーン型車両アーキテクチャに近づけるとともに、専用のオーディオ配線への依存度を下げることができます。
車両アーキテクチャがゾーン型制御へと進化する中、Audio over Ethernet(AoE)は、ハイグレードの車室内オーディオ・エクスペリエンスを実現する、拡張性と効率に優れた手段を提供します。
ゾーン型AoEのリファレンス・ソリューション
今回の概念実証(PoC)では、以下によって構成される実用的なアーキテクチャの実現可能性を立証します。
- 中央ユニット
- Ethernetバックボーンを介して接続された1つ以上のゾーンECU / ZCU
- アンプ、マイクロフォン、AUX入力、車載音響デバイスなどのオーディオ・エンドポイント
- MSP、I2S、TDMによるオーディオのシリアル転送、メディア・クロック・リカバリ、ノードレベルの同期などの組み込みハードウェア機能
- エコシステム・パートナーから提供されるソフトウェア・ソリューション
上記の構成では、オーディオ・ストリームがオーディオ・ビデオ・ブリッジング(AVB)プロトコルによって送信されます。AVBとは高品位のメディアをEthernet経由で提供することに特化して設計されたプロトコルです。オーディオ・データは、Stellarマイクロコントローラ内蔵の同期および帯域幅確保の機能を使ってEthernetネットワークへと送信され、受信先で正確に再構築されます。これによって、高精度の時間的整合性と高信頼度のクロック・リカバリが保証され、シームレスなリスニング・エクスペリエンスが得られます。
同期とタイミングを
維持する方法
Audio over Ethernet転送では、再生の整合性を保ち、人の耳で聞き分けられる遅延ばらつきが発生しないように、送信元と送信先に決定論的なタイミングが必要になります。
提示されたPoCは、オーディオ転送プロトコルを使った同期オーディオ・ストリーミングと、時間的制約のあるアプリケーション向けに設計されたネットワーク・タイミング・メカニズムを中心に構築されています。この方式は、システム・レベルで次のような機能を実現するのに有効です。
- 分散ノード間で同期された再生
- 安定したメディア・クロック・リカバリ
- 低ジッタのオーディオ再構築
- ネットワーク条件が変動しても一貫性の保たれたオーディオ動作
基盤テクノロジー:
- オーディオ転送:IEEE 1722 AVTP
- 時間同期:IEEE 802.1AS / PTP
- 時間的制約のあるストリーミング:Ethernetキューイングおよびトラフィック・シェーピング
このアーキテクチャでStellar G6が果たす役割
STのStellar G6車載用マイクロコントローラ・プラットフォームは、次のような機能を集積化できるため、ゾーン型Audio over Ethernetの実装に最も適しています。
- ゾーン型アプリケーションのリアルタイム制御機能
- 専用のEthernet通信
- メディア・クロック・リカバリ
- オーディオ・ストリーム処理
- 同期およびタイミングのサポート
- ノードレベルのシステム連携
- I2S/TDMなどのネイティブ・オーディオ・インタフェース
今回のPoCで示されたプラットフォーム・コンセプトは、ゾーン制御ユニット(ZCU)によって、Ethernet接続、オーディオ・インタフェース、組み込み処理を統合し、単一ノードの車室内音響システムを実現する方法を明らかにします。
検証および概念実証
PoCの構成要素はAudio over Ethernetが以下の機能実現に寄与することを証明します。
- 車室内分散オーディオ・ストリーミング
- マルチチャネル・オーディオ転送
- 複数のオーディオ・エンドポイント
- ケーブルの挿抜試験における回復力のある動作
- システム負荷が変動する条件下でのシームレスな動作
PoCが証明すること
この概念実証(PoC)では、ゾーン型アーキテクチャにおいて、Audio over Ethernet転送が提供する、同期再生や分散エンドポイントの実現可能性、動的な動作条件下での回復力などが立証されました。この手法は、リアルタイム処理、同期、ネットワーク化された配信をどのように連携させれば、複数のゾーンにまたがる車室内オーディオ・システムに対応できるのかを明らかにします。
この種の実証は、エンジニアリング・チームの次のような作業に役立ちます。
- アーキテクチャの実現可能性の評価
- タイミングおよび同期の動作の評価
- 統合戦略の妥当性検証
- 分散オーディオ・トポロジの検討
- 次世代車両プラットフォーム向け実装方法の選択肢の比較
SDVにおける重要性
Audio over Ethernetへの移行は、単なる伝送方式の変化ではありません。もっと幅広い、ソフトウェア定義型自動車へのアーキテクチャ進化の一部なのです。ソフトウェアによって機能の集中化、ネットワーク化、適応力強化をさらに推し進める動きです。 オーディオ配信は、こうした移行が、従来のハードウェア中心だったサブシステムに、どのようなメリットを提供するのかを示す一つの例と言えます。
オーディオ・システムには、次のようなメリットがもたらされます。
- 固定された配線トポロジへの依存度の低減
- ゾーン型車両のドメインとの整合性強化
- 新しいオーディオ機能の組み込みに対する柔軟性の向上
- 車室内音響配信の拡張性に優れた手法の確立
こうした特徴から、Audio over EthernetはSDVへの移行に深く関わる構成要素となります。
ソフトウェア・スタックとシステム統合
今回のPoCにより、Audio over Ethernetが、次のようなより広範なソフトウェア環境の影響を受けることも明らかになりました。
- Ethernet MACおよび物理レイヤのサポート
- 同期サービス
- VLAN / ネットワークの構成要素
- トランスポート・レイヤおよび制御レイヤ
- 組み込みアプリケーション統合
このことは、ソリューションが単なるコネクティビティ機能ではなく、ハードウェア、ソフトウェア、タイミング協調が関与する総合的なシステム・コンセプトであることを明確に示しています。
STのStellar G6は以下の機能を提供することで、分散車載システムにおけるリアルタイム処理、タイミング、車両内通信の要求に応えます。
- AVTPオーディオ転送
- 時間同期
- ネットワーク設定
- 組み込みオーディオ・サポート
- ZCU上へのスタック統合
ゾーン型オーディオの量産化に向けて
提示されたリファレンス設計は、Ethernetスタックを提供するAutoCore社など、車載製品エコシステム・パートナーとのコラボレーションの強力な基盤となります。
ゾーン型コントローラに基づくオーディオ・アーキテクチャを概念からシステム・レベルの組み込みへと導くには、ハードウェアおよびソフトウェアをどのように共同開発していけばよいのか。その答えが、このリファレンス設計を通して得られたのです。
共同作業は、特に次のような機能の検討時に重要になります。
- オーディオ機能を備えたゾーンECU
- Ethernetベースの分散メディア・システム
- 拡張性に優れた車室内音響方式
- 量産プラットフォーム向けの統合戦略
リファレンス・ソリューション
AutoCore社との共同ソリューションでは、エンド・ツー・エンド・レイテンシを2ms未満に抑えられることが既に証明されており、STはニュールンベルクで開催されたEmbedded World 2026のテクノロジー・ライブでその成果を発表しました。
Embedded World 2026に展示されたデモ
Audio over Ethernetソリューションのハードウェア:デモZCUソリューション・ボード、オーディオ機能を強化するZCUオーディオ拡張ボード:
ZCU 3.xソリューション・ボード
ZCU 3.xソリューション・ボード
システム制御および処理:Stellar G6 32bit Arm®マイコンSR6G6C4および SR6G6C6
パワー・マネージメント:パワー・マネージメントIC SPSB100Gおよび高電圧ホット・スワップ、ソフト・スタート、OR制御IC STPM801
eヒューズによるパワー・ディストリビューション保護:
スイッチ、アクチュエータ:
- 24bit SPIインタフェース搭載ハイサイド・ドライバVN9D30Q100F / VN9D5D20FN
- 電流検出アナログ・フィードバック機能搭載ハイサイド・ドライバVN9004AJ / VND9008AJ
- オクタル・ハーフブリッジ・プリドライバL99MH98 / 集積化Hーブリッジ・モータ・ドライバVNH9030AQ
- 設定可能なマルチチャネル・リレー・ドライバL9026 / 8チャネル・ローサイド・ドライバL9800
- LINおよびHS-CAN搭載フロント・ドア・デバイスL99DZ200G
低電圧MOSFETによるパワー・スイッチ:
- 40V NチャネルF8 STripFET MOSET STL325N4F8AG
- 40V F7 STripFET MOSFET STL210N4LF7AG、STL105N4LF7AG、STL76DN4LF7AG
- 80V F7 STripFET MOSFET STL135N8F7AG(近々F8として供給予定)
インタフェース:PSI5トランシーバIC L9663
オーディオ増幅:4 x 80Wデジタル入力D級車載オーディオ・アンプHFDA801A
ZCU 3.xオーディオ拡張ボード
ZCU 3.xオーディオ拡張ボード
よくある質問
1 ー 車載用Audio over Ethernetとは
複数のオーディオ専用接続を使用せずに、Ethernetバックボーンを介してオーディオ・データを伝送するアーキテクチャです。
2 ー ソフトウェア定義型自動車と密接に関係すると言われる理由
ソフトウェア定義型自動車では、異なる車両プラットフォームへの拡張が可能な、柔軟でネットワーク化されたソフトウェア管理のアーキテクチャが使用されるからです。
3 ー Stellar G6が果たす役割とは
Stellar G6は、分散車載システムにおけるリアルタイム処理、タイミング、車両内通信の要求に応えます。