慢性疼痛を緩和する世界初の非薬物療法
全地球人口の約30%に及ぶ人々が、世界中で慢性疼痛に苦しんでます。慢性疼痛とは、世界保健機関(WHO)によると、3カ月から6カ月以上続く痛みを指します。長年、医学研究では、薬物療法に代わるものとして、体内で分泌されるエンドルフィンの力を利用しようとしてきました。これまでのところ、従来の薬学的アプローチはうまくいっておらず、エンドルフィンを再現したり、錠剤として服用したりすることはできません。
そこにブレークスルーを起こしたのが、フランスのスタートアップ企業であるRemedee Labs社です。2016年に設立された同社は、革新的なエンドルフィン分泌刺激装置を開発しました。リストバンドとして利用できる非常にコンパクトなこの装置は、薬剤を使用しない持続可能なソリューションを提供します。この医療グレードのウェアラブル機器は、患者の慢性疼痛管理に役立ちます。
課題
- エンドルフィン分泌刺激装置の開発とリストバンドに収まる小型サイズ
- 患者自身による快適かつ安全なエンドルフィン分泌刺激
- この革新的技術の迅速な市場投入と厳しい医療規格への対応
ソリューション
- STの61GHzワイヤレス・ミリ波技術を利用してエンドルフィン分泌を活性化
- 研究・技術機関であるCEAと緊密に協力し、STの技術をリストバンド固有の要件に適応させ、厳しい医療認証要件に対応
効果
- 薬剤を使用しない非侵襲的な疼痛緩和用リストバンド
- 線維筋痛症被験者の75%以上が全体的な健康状態の有意な改善を報告
- 変形性関節症患者では3カ月の使用後に痛みが21%軽減し、睡眠の質が24%改善
リストバンド型のエンドルフィン分泌刺激装置
エンドルフィンが、痛みを抑える分泌成分であることは、長く認識されてきました。痛みやストレスに反応して脳から分泌されるこの「快感」ホルモンは、皮膚にミリ波を当てることで刺激することができます。このコンセプト自体は、1970年代に生まれたものですが、それをリストバンドに統合して終日着用することは、これまで実現不可能でした。Remedee Labs社は、STのエキスパートと緊密に協力して、61GHzの信号を安全に放出してエンドルフィンの分泌を促進する医療グレードのカスタム・チップを開発しました。このチップは、皮膚表面のわずか0.5mm下にある「天然」の皮下センサを正確に狙って、ミリ波を介してエンドルフィンの放出を効果的に誘発します。この非侵襲的方法は、薬剤を使用しない安全な疼痛緩和法です。
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STの専門性を活用し、体内の天然鎮痛剤を刺激することによる、線維筋痛症と変形性関節症に対する世界初の非薬物療法
を開発しました。”
Michael FOERSTER氏, Remedee Labs社 最高技術責任者(CTO)
堅牢なイノベーション・エコシステム
Remedee Labs社は、STのワイヤレス・ミリ波が医療用として認可を受けていなかったにもかかわらず、すぐに採用を決めました。ヨーロッパの主要な研究・技術センターであり、STの研究パートナーでもあるフランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)のスピンオフ企業として設立されたRemedee Labs社は、このSTのテクノロジーを医療用に適応させるために、研究開発におけるCEAの専門知識を活用しました。CEAは、このテクノロジーをリストバンド固有の要件に合わせるために、広範な研究を行いました。また、Remedee Labs社は、厳しい医療規格に対応するため、CEAのノウハウを活用しました。一方、STは製品開発期間を短縮するためにパッケージ・ソリューションを提供しました。その結果は予想を上回るもので、このリストバンドは、設立から8年足らずで医療機器として欧州CEマークを取得しました。
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スタートアップ企業である当社にとって、時間は最も貴重な資源です。STおよびCEAのエキスパートと力を合わせることで、技術的なリスクを軽減し、製品開発期間を短縮することができました。
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Michael FOERSTER氏, Remedee Labs社 最高技術責任者(CTO)
薬剤を使用しない疼痛緩和効果
リストバンド型のエンドルフィン分泌刺激装置は、サブスクリプション制の医療機器です。1日3回使用するように設計されており、患者は通常、数週間後から効果を感じ始めます。ほとんどの患者は、期待以上の結果が得られています。典型的な例として、線維筋痛症が挙げられます。この疾患では、全身(主に筋肉と関節)に慢性疼痛が生じます。Remedee Labs社のリストバンドを使用した線維筋痛症患者の62%以上が、生活の質(FIQスコア)の有意な改善を報告しました。
この製品が成功した大きな要因は、Remedee Labs社の患者中心のアプローチにあります。処方期間中または症状が消失するまでレンタル可能なこのリストバンドは、疼痛管理戦略の転換を意味するものであり、患者の疼痛管理能力を向上させて、薬剤への依存を減らします。